第二十四課 鶴の恩返し
昔、ある所に、貧乏な若者がおりました。
ある日のことです。若者が田を耕していると、体に矢を刺さった一羽(いちわ)の鶴が舞い降りてきました。鶴は、まるでこの矢を抜いてくれと言わんばかりに鳴いていました。
「可愛そうに。よしよし、少しの辛抱だよ」若者は、そう言って矢を抜いてやりました。鶴は、まるでお辞儀をするかのように、何度も首を振りながら、うれしそうに飛んで行きました。
その三日後の夜のことでした。若者が寝ようとしていると、表(おもて)の戸(と)をトントンと叩く音がしました。
「いったいこんな時間に誰だろう。」若者が戸を開けると、そこには、目もくらむばかりに美しい娘が立っていました。
「道に迷っているうちに、夜になってしまいました。申し訳ありませんが、今晩ここに泊めていただけないでしょうか。」
「それはお困りでしょう。こんな狭いところでよかったら、どうぞお泊まりください。」若者は、そう言って、その娘を泊めてやりました。
一晩だけかと思ったら、娘は、その次の日もとめてくれと言いました。若者が、よかったら何日でも富めってくれと言いました。
娘は、次の晩も、またその次の晩もとまりました。そして、とうとう若者の嫁にしてくれと言い出しました。若者は「貧乏な俺の嫁になっても、苦労するばかりだ。」と言いましたが、娘は「どんな」に貧乏でもかまいません。
一生懸命働きますから、どうか嫁にしてください。」と頼みました。もちろん、若者にとってこんなうれしいことはありません。
喜んでその娘を嫁にしました。娘は、美しく、優しく、そして働き者でした。
若者は、まるで嫁でも見ているような幸せな気持ちでした。ある日のこと、娘は、若者に、機(はた)を織る部屋を作ってやると、今度は「どうか私が機を織ってるところを決してみないでください。」と言いました。
なぜんが尋ねると、「わけはいえません。とにかく絶対に見ないと約束してください。約束を破ると、私はあなたの所にいられなくなります。」と、強い調子で言いました。
若者が絶対に見ないと約束すると、娘はその部屋に入って機を織り始めました。やがて部屋から出てきた娘は、少し疲れた様子でしたが、にっこりと笑って、織り上がった布を若者に見せました。それは、若者がこれまでに見たこともないきれいで、立派な織物でした。
「これを町へ持って行って、売ってください。きっと高く売れるでしょう。」娘にそういわれて、若者はそれ町へ売りにいきました。すると、驚いたことに、町一番の金持ちが、信じられないような大金でその織物を買ってくれました。
若者は嬉しくてたまりません。うちに帰ると、娘に、もう一回織ってくれ、と頼みました。娘は頷いて(頷くうなずく)、また部屋に入って機を織り始めました。ふと、若者は不思議に思いました。
「どうしてあんなにきれいで立派な織物ができるのだろう。ちょっと見てみたいものだ。」若者は、もし見たらあなたのところに入られなくなるといった娘の言葉を思い出して、じっと我慢しました。けれども、とうとう我慢できなくなって、小さなふじ穴から部屋の中をのぞきました。「ありゃりゃ・・・・・・!」
若者は、のぞいてびっくりしました。部屋の中にいるのは、あのきれいで優しい娘ではなく、一羽鶴でした。鶴が、自分の羽を抜いて羽織(はおり)、抜いては織りしているのです。わがものに見られてしまった鶴は、悲しい(かなしい)言いました。「見ないでくださいと言ったのに、あなたは見てしまいました。私は、以前あなたに助けて(助ける)いただいた鶴です。恩返しのためにあなたのところに来ましたが、見られてしまった以上、もうここにいるわけにはいきません。」そういうと、鶴は、織物を半分織り掛けたまま、遠いおらへ飛んでいってしまいました。放しそうな鶴の鳴き声だけが夕焼けの空にいつまでも響いていました。